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東京高等裁判所 昭和31年(く)68号 決定

本籍並びに住居 茨城県○○市○○町○○○番地

少年 広田重一(仮名) 昭和十四年四月二十一日生

抗告人 父

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要領は別紙記載のとおりである。

よつて按ずるに抗告人の長男である広田重一が生来知能発育が遅れていて中学校教育も満足に受けることができなかつたことは記録上認め得ないわけではないが、重一がその智能的欠陥のせいで取調官に唯ハイハイと返事し、そのため誤つて自分の身に覚えのない事まで自白したといつた形跡は記録上認められない。原審たる水戸家庭裁判所の審判調書によれば、重一は裁判官に対し、覚えのないことたとえばT方に於ける小麦五合窃取したとの事実は否認し、その他の事実は間違いなく自分の犯行であると陳述したと認められ、否定すべきはこれを否定し、係官の問をそのまま承認したわけではない。この事は右審判に重一の保護者として立会つた抗告人が十分知つている筈であり、その他記録を精査して原決定の認定した事実が誤であるとはいえない。又本件広田重一の犯行は単独でしたものは一つもなく、すべて同人の他に共犯者が一名或は三名もいる事は原決定の文面上明らかなところで、それにも拘らず所論が原決定は単独犯行を認定したかのように主張しているのはその誤解に過ぎない。共犯者たる少年達は未だ審判を受けず重一のみ他に先んじて審判を受けたのは、同人が昭和二十九年五月十五日保護観察処分に付せられていたためと認められ、他の共犯者をことさらに不問とし、或いはその審判を遅らせたりして重一に対し不公平な処置をしたわけではない。それ故原決定の事実誤認又は審判手続上の違法を主張するのは理由がない。その他記録を精査検討し、重一の性格、知能、年齢、家庭の環境及び従前の非行歴等諸般の情状をみるとき同人に対する原決定の処分は不当とはいえないから、論旨はすべてその理由がない。

よつて本件抗告は理由がないから少年法第三十三条第一項に則つて主文のとおり決定する。

(裁判長判事 加納駿平 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

別紙(原審の保護処分決定)

本籍 茨城県○○市○○町○○○番地

住居 同所

無職 広田重一(仮名) 昭和十四年四月二十一日生

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(事実)

少年は

一、B、Dと共謀して昭和三十一年六月二十四日頃、日立市○○○○○号P方より同人所有のサイダー六本を窃取し

二、B、D、Kと共謀して同月下旬、前記P方より同人所有の桃約三十箇を窃取し

三、右三名と共謀して同年七月十七日、前記P方より同人所有のビール六本及び桃約三十箇を窃取し

四、K、Dと共謀して、同日同市○○○○○三番地G方より同人所有の硝子器(菓子在中)一箇を窃取し

五、右二名と共謀して同日同市○○町○○○二番地M方より同人所有のサンスター煉歯磨七箇(価格二百九十円)を窃取し

六、K外三名と共謀して同日同市○○○アパート九の一七号R方より、同人所有の中古自転車一台を窃取し、

七、Dと共謀して同日同市○○○町○○六番地S方より、同人所有の鉄材(価格四百円位)を窃取し

八、Bと共謀して同月十八日同市○○社宅○二○号V方より、同人所有の紺色ズボン外数点を窃取

したものである。

(適条)

刑法第二百三十五条、第六十条

(要保護性)

少年は生来意志薄弱にして自立性に乏しく家庭の教育にも欠陥があるため健全なる発育がみられないのみでなく、智能の遅滞も原因して中学校生活にも適応して行けず学業を怠る生活を継続し、中学一年の時より窃盗行為を反覆し、既に昭和二十九年五月十五日には保護観察になつたが、その後も窃盗事件として四回も当裁判所に係属し、後の二回の保護事件について昭和三十年八月五日試験観察に付し本年五月十六日訓戒の上不処分の決定をなしたが、その後僅かに一月余りしか経過していないのに本件非行を惹起したのである。以上の非行反覆の裡に看取される盗癖の習性化と不健全なる生活態度の固定化との傾向はまことに顕著になりつつあり、一方従来の在宅保護が効果を収め得なかつた点等を考慮すれば、この際少年を少年院に収容して規律ある生活訓練を通じて少年の性格と行状の矯正を図り社会適応性を体得させる必要があるものと認める。

よつて少年法第二十四条第一項第三号、少年審判規則第三十七条第一項、少年院法第二条等の各規定に則り主文の通り決定する。

(昭和三十一年八月二十四日 水戸家庭裁判所 裁判官 藤原康志)

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